灰色。
朝、差し込む光の色で太陽がいない事はわかる。
車の通過するビシャーという音で、道路が濡れている事がわかる。
カーテンを開けると、灰色。
これが私の大嫌いな雨だ。
でも私にはもっと嫌いなものがある。
傘だ。
大体あればなんだというのだろう。まず、持ち歩くのが面倒くさい。
私は箸より重たいものはなるべく持ちたくないのだ。
あれは武器にもなり得るだろう。
最近の世の中は逆恨み地獄であるから、私が何か道端で行った行動一つで逆恨みされ、傘で突かれたらたまったものではない。
だから私は傘を持ち歩かない。どんなに雨でも絶対に傘を差さない。
私は今日、会社に行かなければならない。それが私の使命。
私はもうダッシュで走り出した。ほとばしるパトスを雨なんかに止める事などできない。
私のこの心に燃ゆる炎は、雨なんかでは消えやしない。
私は走っている。靴の中に入り込む水のせいで音を立てながら走っている。
私は頑張っている! こんなにも雨が降っているのに、傘を差さないのに会社に行かないという選択をしない!
それなのに車が自己中心的な運転で、私の行く手を阻む!
私は怒っている。なので行く手を阻む車のボンネットに飛び乗り、そのまま通過して走りぬける。
私は傘を差している女性とぶつかった。私には使命がある! こんな女に構っている暇はない! 傘を持っている奴は敵である!
女が怒って何か怒鳴っている。私には聞こえない! 雨の音で何も聞こえない!
私は走っている。全身にまとわりつく雨に嫌気がさし、近所のパン屋でパンを購入し、水を吸収させる事にした。
すぐにパンはぶよぶよになったため、食べた。
食べ応えが増している! 食べると同時に飲める! 食料界の革命児!
私はそういえば朝ごはんもたくさん食べていたため、おなかが痛くなった。
もう走れない!
よく見ると後ろから車と女が追いかけて来ている。暇人め!
私は持っているまきびしを投げつけると、また走り出す。
箸より重いまきびしはなるべく持ち歩きたくない!
でも仕方ない。こういう危険は世に潜んでいるのだから。
私が悪いんじゃない! 世が悪い。物騒すぎるスラム街!
まきびしに引っかかって飛び跳ねている奴らを尻目に、更に走る!
雨風にさらされ、走り続けてぐちゃぐちゃになった私の顔を見て、若者が笑っている。
お前らに何が笑えるか!
お前に私が笑えるのか!
大体私は知っている。お前の母はでべそなのだ!
「お前の母はでべそだ!」
そう言いながら手榴弾を投げた。
箸より重い手榴弾は持ちたくないが、こういう事が頻繁に起こるので仕方がない。
世の中が腐ったドリアンであるから悪いのだ!
私は走っている。大理石の道路の上を!
スッテンコロリーン!
大げさにこける!
しかし後ろに一回転して着地! 10点だろう! 見たか!
じじいが言う。「途中崩れたね。6点」
ばかにするな!10点に決まっているだろう!
私は投げる。ボーリングの玉を投げる!
箸より重いものは持ちたくないが、こういう事があるのでいつでも持ち歩いているのだ。
仕方ない。この町が暗黒歓楽街であるためである!
前から歩いてくる傘を差した男が、携帯電話で会話をして前方を見ていない!
諸悪の根源…お前のような傘人間が! 私の! 心の! 傘を! 奪い!
私の全身全霊を混めた雨粒アタックを喰らえ!
ブルドーザーのようにそいつに突っ込む。
耕せ! 耕せ! 耕せ!
そして走り抜ける!
怒号を飛ばして追いかけてくる男!
私は取り出す! ポケットから巨大岩を!
そして投げる!投げる!
箸より重いものは持ちたくないけど仕方ない! 私のせいじゃない!
全てこの悲しみに包まれたMAD CITYが悪い!
これでもう邪魔者はいない! 一人もいない!
私は会社のドアを開ける! こじあける!
会社の階段を駆け上がる! 8階まで駆け上がる!
タイムカードまで無心で走る!
叩き込む!
ピッ「オハヨウゴザイマス」
使命を果たした…
私はその場に倒れこむと、部長がやってきた。
頑張った私に彼は退職を要求した。
私は会社に爆弾を投げ込むと、もうもうと燃え盛る会社を背に、再び歩き出した。