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-   2012.04.01 Sunday     -   -
「わたし、傘が きらい」
 

灰色。

朝、差し込む光の色で太陽がいない事はわかる。
車の通過するビシャーという音で、道路が濡れている事がわかる。
カーテンを開けると、灰色。

これが私の大嫌いな雨だ。

でも私にはもっと嫌いなものがある。

傘だ。

大体あればなんだというのだろう。まず、持ち歩くのが面倒くさい。
私は箸より重たいものはなるべく持ちたくないのだ。

あれは武器にもなり得るだろう。
最近の世の中は逆恨み地獄であるから、私が何か道端で行った行動一つで逆恨みされ、傘で突かれたらたまったものではない。

だから私は傘を持ち歩かない。どんなに雨でも絶対に傘を差さない。

私は今日、会社に行かなければならない。それが私の使命。

私はもうダッシュで走り出した。ほとばしるパトスを雨なんかに止める事などできない。

私のこの心に燃ゆる炎は、雨なんかでは消えやしない。

私は走っている。靴の中に入り込む水のせいで音を立てながら走っている。

私は頑張っている! こんなにも雨が降っているのに、傘を差さないのに会社に行かないという選択をしない!

それなのに車が自己中心的な運転で、私の行く手を阻む!

私は怒っている。なので行く手を阻む車のボンネットに飛び乗り、そのまま通過して走りぬける。

私は傘を差している女性とぶつかった。私には使命がある! こんな女に構っている暇はない! 傘を持っている奴は敵である!

女が怒って何か怒鳴っている。私には聞こえない! 雨の音で何も聞こえない!

私は走っている。全身にまとわりつく雨に嫌気がさし、近所のパン屋でパンを購入し、水を吸収させる事にした。

すぐにパンはぶよぶよになったため、食べた。

食べ応えが増している! 食べると同時に飲める! 食料界の革命児!

私はそういえば朝ごはんもたくさん食べていたため、おなかが痛くなった。

もう走れない!

よく見ると後ろから車と女が追いかけて来ている。暇人め!

私は持っているまきびしを投げつけると、また走り出す。

箸より重いまきびしはなるべく持ち歩きたくない!

でも仕方ない。こういう危険は世に潜んでいるのだから。

私が悪いんじゃない! 世が悪い。物騒すぎるスラム街!

まきびしに引っかかって飛び跳ねている奴らを尻目に、更に走る!

雨風にさらされ、走り続けてぐちゃぐちゃになった私の顔を見て、若者が笑っている。

お前らに何が笑えるか!

お前に私が笑えるのか!


大体私は知っている。お前の母はでべそなのだ!

「お前の母はでべそだ!」

そう言いながら手榴弾を投げた。

箸より重い手榴弾は持ちたくないが、こういう事が頻繁に起こるので仕方がない。

世の中が腐ったドリアンであるから悪いのだ!

私は走っている。大理石の道路の上を!

スッテンコロリーン!

大げさにこける!

しかし後ろに一回転して着地! 10点だろう! 見たか!

じじいが言う。「途中崩れたね。6点」

ばかにするな!10点に決まっているだろう!

私は投げる。ボーリングの玉を投げる!

箸より重いものは持ちたくないが、こういう事があるのでいつでも持ち歩いているのだ。

仕方ない。この町が暗黒歓楽街であるためである!


前から歩いてくる傘を差した男が、携帯電話で会話をして前方を見ていない!

諸悪の根源…お前のような傘人間が! 私の! 心の! 傘を! 奪い!

私の全身全霊を混めた雨粒アタックを喰らえ!

ブルドーザーのようにそいつに突っ込む。

耕せ! 耕せ! 耕せ!

そして走り抜ける!

怒号を飛ばして追いかけてくる男!

私は取り出す! ポケットから巨大岩を!

そして投げる!投げる!

箸より重いものは持ちたくないけど仕方ない! 私のせいじゃない!

全てこの悲しみに包まれたMAD CITYが悪い!

これでもう邪魔者はいない! 一人もいない!

私は会社のドアを開ける! こじあける!

会社の階段を駆け上がる! 8階まで駆け上がる!

タイムカードまで無心で走る!

叩き込む!


ピッ「オハヨウゴザイマス」

使命を果たした…

私はその場に倒れこむと、部長がやってきた。

頑張った私に彼は退職を要求した。


私は会社に爆弾を投げ込むと、もうもうと燃え盛る会社を背に、再び歩き出した。





おわり







実家のシャンプーがダウアーだった   2012.03.27 Tuesday   00:00   -   trackbacks(0)
「太鼓橋」
 


とんとんとん…とんとんとん
太鼓橋からは今日も音が流れてくる。

家でこんにゃくをむしゃりと食べていると、郵便受けにガタリという音がした。
投函した人物が去る頃を見計らい中身を取りにいくと、チラシであった。

近所のまるおかスーパーでももひきが安いとのこと。
最近は寒いのでももひきを調達せねばと思っていたから丁度良いので向かう事とした。

とんとんとんとん音の鳴る太鼓橋を渡りながらまるおかスーパーのある「へそ町」へ向かうと、【この橋で飲食するべからず】と看板が立てかけられていたため、中心に寄ってこんにゃくを食べると、真っ赤な顔をしたじいさんが走ってきて、あらゆる限りの罵詈雑言を私に浴びせると、こんにゃくを奪い去っていった。

通常ももひき−こんにゃく<割引ももひき

と考えたので、どうにも損をしたような気分になったため、まるおかスーパーに行くのをやめ、太鼓橋の上で鎮座する事にし、夕暮れにぴかぴかと光る川の水面を眺めていると、一人の女が近づいてくる。

「貴方陶芸に興味はないでしょうか。貴方陶芸に興味がありそうねぇ」

そういって近づいてくるので、別段興味津々というわけではないですよ。と告げると

「私もです」

と言って隣に座った。

とんとんとん ポーン

太鼓橋の鳴りが良くなっている。

「陶芸の話はきっかけにすぎなく、本当は貴方に興味があったのです」

ほう、寒いのにももひきを履いていないからかな、と思うと彼女は

「さっきこんにゃくを食べて怒号を浴びていましたよねぇ。あれは面白かったですよ。頭が悪いように思えましたからね。」

と言ってプーと笑い出した。

太鼓が寂しげにポンポンと鳴っている。

つまりバカにしに来たのですか、というと、そうですよ。動画をまわしておいて動画サイトにアップして世界の笑いものにすればよかったです。と答えながら立ち上がると、座っていた所に小さいパンダが落ちていた。

私はつい笑ってしまった。

すると彼女は「何よ! 座ると小さいパンダがついてしまう私のような人間だから、よりバカな人をバカにしたくなるのはそんなにいけない事かしら!? どうせ座るとパンダがついてしまうからバカにしているでしょう!」と泣き叫び、去っていった。

ポンポンポン… とんとんとん…

太鼓の音が夕日に溶けていく。

ももひきはまた、次回買う事にしよう。

おわり







実家のシャンプーがダウアーだった   2012.01.12 Thursday   22:41   -   trackbacks(0)
パチもん
 煙がもうもうと焚かれている露店の中にパチもんのTシャツが沢山売っている。

今日のお目当ては某バンドのTシャツであるのだが、実物は高いのでパチもんを探しにここまで来たのだ。

ちなみにパチもんは1000円程度で売っている。本物は4000円程度だ。

この3000円の浮きがあれば、間違いなく数日間飯が食える。きっと大好きな焼き鳥も何個か食えるのだ。

私は貧乏だ。普段はおしぼり工場でおしぼりを固くしぼる仕事をしている。最初はなかなか固くしぼれなかったため、よく先輩に怒られたものだけれど、最近はギュっとしぼる事が出来るようになったので、後輩によくそんなに固くしぼれますね。固い決意の現れのように感じますよ。などと持て囃されている日々である。

そんな私を気に入らない同僚がいるため、バンドTシャツで一つ上のオシャレをして威嚇してやるのだ。

そのために今日は露店にやってきた。
香が焚かれており、物を沢山煮ているため、煙に包まれている。まやかしのようだ。

お目当てのTシャツ屋の前に近寄ると、今まさにTシャツを煮込んでいる最中であった。

「もう少しで煮あがるから待っててね」

露店のおじさんはそう言うと、木の棒で大きな壺のような鍋の中をかき回す。

炎天下の中ぐつぐつと煮え立つ鍋の音を聞いていると、頭がクラクラしてくる。

私は隣の店で、シーセボンというジュースを買い、ごくごくと飲み干すと、そちらの店主にいい飲みっぷりなのでこれもあげると言われて、サワガニを一匹プレゼントされたため、バリバリと食ってみせた。あまり美味しくない。

そうこうしているうちにTシャツが煮え立ったようで、ほらよ! と鍋からそのまま木の棒で取り出したものを投げつけられた。

ビターンと顔に染まりたてのTシャツが叩きつけられ、あつっ! と叫んでいると、周りの人々がワハハと笑っていた。

そして1000円を払い露店をくるくる回ると段々疲れてきたため、家に帰る事にした。

びたびたのTシャツを窓の外に干し、家で紅茶を飲み一服をしていると電話の音がじりじりと鳴った。

「はは。パチもん、か。煮ている所から見ていたよ。」私を憎む同僚からの電話であった。

「見ているとは…ストーカーか!」私は語気を荒げた。

それがなんだと言わんばかりに彼は続ける。

「私のは本物だよ。」

「なにっ!!」

「お前のようなパチもんではないということだ! では!」

受話器を耳から少し離しても聞こえるガチャリという音と共にプープーとむなしく響いている。

なんという事だ。パチもんでは本物に勝てないではないか。

悔しいのでやけ紅茶を煽ってそのまま眠った。

次の日会社に一応着て行くと、彼がやってきた。Tシャツを着てさも勝ち誇った顔をして近寄ってくる。くそう…今日の所は…などと思っていると、何かの違和に気づいた。

「お前、それ…」

「なんだい。これこそが本物だよ。」

「そのバンドのトレードマークはフナじゃないか。でもお前のそれはブナシメジじゃないか。それパチもんではないか?」

「なっ…なにぃ! これがブナシメジのはず…あっ! これはブナシメジだ! フナではなかった! ちくしょう! 友人に3000円で譲ってもらったのに、これはブナシメジじゃないか!」

彼は壁に両手をダーンと打ち付けると、おもむろに泣き出し、語りだした。

「昔から何をやってもお前に勝てないんだ…おしぼりも握力足らずのため若干固くしぼれない…クルミを握って修行をしても、くるみを割る事も出来ない。露店でお前を見かけて、パチもんを買う所を見て、これで勝てる! と思ったのに…」

ブナシメジに涙の玉が落ち、ブナシメジの色合いが深みを増した。

「そんな事ないよ。私だって君には勝てない所があるんだ。その哀愁だよ。ロマンスグレーのごとくの哀愁が私からは出せないんだ。いつも憧れていたよ。」

「お、お前…」

二人で泣きながら抱き合っていると本物のフナのバンドTを来た先輩がやってきて、「なんそれ」と言って去っていった。

おわり








実家のシャンプーがダウアーだった   2011.11.01 Tuesday   01:33   -   trackbacks(0)
「台所のアケミ」
 「うぐぁ…」

アケミに包丁が刺さっている。目の前にあるトマトをスパッと切ろうとしたらイージーミスで自分を切ってしまったのだ。

このご時世に切腹なんて片腹痛い。いや。刺した腹の真ん中が痛い。今私うまい事考えたわ!とニヤけるが、激痛で顔がゆがんでしまう。

とりあえず救急車を呼び、一命を取りとめ、数週間後無事に退院した。

アケミは36歳の学生である。要するに大仁田みたいなものである。久しぶりに登校すると、アケミの友達の陣子が傍へかけよってきた。

「アケミさん刺されたらしいですね。男女関係のもつれですか? アケミさん位の年になるとそういうのあるんですね。こえー」

といってガタガタ震えている。

「違うのよ陣子さん。ウッカリなの。私はウッカリさんなの。」とあわててフォローすると

「アケミさん記念に帰りプリクラとりましょうよ」と言ってどこかに行ってしまった。



アケミはこの年で学校に入るだけはあり、真面目に勉強したいので、授業中はしっかり話を聞いてノートを取っている。今日もカリカリと鉛筆と色ペンで綺麗にノートを書いていた。

授業が終わって一息ついていると、机の上に揚げ物がトンと置かれた。エビフライほか各種だ。

「!?」

アケミは驚いて顔を上げると、山林くんだった。

山林くんは多分22歳位の学生で、アケミが密かに素敵な好青年と思っていた人だった。

「揚げ物をあげるのでノートを見せてくれませんか?」

アケミは照れてダッシュで逃げた。すると山林くんが揚げ物を両手で持ってダッシュで追いかけてきた。

「アケミさん! 一口食べれば納得しますから!」

アケミは走った。すると陸上部の山林はもっと走った。そして回り込まれてしまった。

「ぜぇ、ぜぇ、アケミさん、疲れた時には揚げ物です」

アケミは山林の心遣いにまた少しキュンとしたので観念し、揚げ物を頂く事にした。

「廊下じゃ何ですから、音楽室にでも行きましょう。バッハの肖像画も見たいし」と山林が言い、アケミの手を引いた。片手に器用に揚げ物の皿を持つ。アケミはドキっとし、何も言わずについていった。

誰もいない音楽室に入ると、向かい合わせに机に座った。「さあ、食べて下さい。」と山林はポケットから箸と塩のビンを出した。

「塩で食べるのね。」アケミは天つゆ派なので少しだけ残念な気持ちになった。

「塩で食べて欲しいんです。」真剣な山林の目がアケミを貫く。

アケミは塩で頂く事にした。

「頂きます。」アケミは手を合わせ少し塩を振ると、箸で海老フライをヒョイと持ち上げ
、顔の前まで持ってきた。

「サクッ」

静かな音楽室を歯切れのいい天ぷら音が切り裂いた。

「こ、これは…」

山林が興奮したような、緊張したような面持ちでアケミを見ている。

アケミはグランドピアノに向かって走った。
「ガアァァン」音楽室には明美のかき鳴らすピアノの音が響き渡った。

「アケミさん!?」山林が驚き戸惑うが、アケミの演奏はとまらない。

しばらくするとメロディは優美なものに変わり、アケミが歌いだした。

「サブウェイ 地下鉄の ことよ
あれに 乗るとね 私はね
閉塞感を 味わうの 
だけども 今日はね 違うわ

あらわれたのよ 目の前に
琥珀 色した 天ぷらが
私 最初は 迷ったの
だけどね すべては 変わった

衣 サックリしていてその上ふんわりで
海老は ぷりぷりとってもジューシーよ
私 その時 思ったの
若き 頃の わたし の ようね…


涙 無くして 頂けぬ
淡き あの日の きらめきよ

あふれる 想いを 今ここで

貴方に 伝える 好きよと…」


アケミは思いの丈をぶつけると、倒れた。

気づくとアケミはベッドの上だった。病院に運ばれていたのだ。だが歯医者だった。

山林君が間違えて歯医者につれてきてしまったのだ。明美は虫歯があったのでそのまま治療されてしまった。

明美を治療している先生は、歯の隙間に挟まった天ぷらの衣を見て、これは…と思った。

そして治療が終わると、アケミにそっと耳打ちした。

「お代はいらぬからあの奇跡の衣の製造方法を教えてくれないかね?」

アケミは戸惑った。

奇跡の衣は山林君が私にくれたもの。製造方法を渡す事は二人の秘密の共有が出来なくなってしまう。というか製造方法は知らない。

「…いえ、それは出来ません。お代はきちんと払いますから」と言い、初診料込みの3000円を支払い、歯医者を後にした。

そういえば山林君がいない。どこへ行ったのだろう…




アケミは七三通りを歩いていた。歯が治って爽快なので喫茶「ぼたんの華」に向かおうとしているのだ。

ぼたんの華で山林くんにお礼の手紙をしたためようと思い、コンビニで便箋セットを買った。

そしてぼたんの華の前に着くと、ドアがひとりでに開いた。

そしてそのままアケミの顔にぶつかり、アケミは鼻血を流した。

ドアの向こうの青年があわてて「申し訳ありません素敵な熟女さん! 大丈夫ですか」とハンケチを差し出した。

戦隊ものの青いハンケチだった。

「良いのよ、青いハンケチが紅く染まってしまうわ、この青空カラオケのようなハンケチを血濡れた午後にはしたくないわ」とアケミは断った。

すると青年は「そうはいきません熟女さん! あ、お名前を…」

「アケミと言うわ」アケミは血を流しながら笑顔で答えた。

「僕はいもへいと言います。芋に平と書きます。大地に根付くよう、父が付けてくれた名前です。」と言う。

ようやく落ち着いてきたアケミは芋平の顔を見た。

ニジマスのようなさわやかな顔であった。

アケミはこのような青年の前でたらたらと血を流す自分がなんだか恥ずかしくなり、逃げた。

すると芋平が追ってきた。

「待ってください! アケミさん! ハンケチを受け取って下さい!」

アケミは逃げながら息を切らして答えた。

「無理よ芋平さん! 戦隊ものはレッドばかりではないのよ!」

芋平も懸命に走りながら言った。「黄色やグリーンの重要さも知っているつもりです! 心にあればそれでいいんだ! ハンケチを使ってよ!」

アケミは引くに引けなくなり、更にダッシュすると、道の角で人にドシンとぶつかってしまった。

「あうつっ! ご、ごめんなさい!」

顔を上げると、山林であった。

「いつぅ…」

山林がいつぅとなっている。アケミはびっくりし、「山林君! 大丈夫!?」と言って顔を近づけると、頭から少し血が出ていた。

「山林君! ハンケチで血を…」アケミはそこまで言うと、自分がハンケチを持っていない事に気が付いた。

芋平が後ろから出てきた。

「このハンケチを使って下さい。」

戦隊物の青いハンケチを差し出した。

「ありがとうございます。このような綺麗なハンケチを使わせていただき感無量です。」

山林は笑顔でそういうとハンケチを使った。

青いハンケチに血が滲んでゆく。

芋平の顔が歪む。


「貴方…山林さん。」

「なんでしょう? えっと…」

「…芋平です。」

「あ、芋平さん。」

「お怪我、早くなおるといいですね。それじゃ僕はこれで…」

芋平は背中を向けて去ろうとした。

「あ、待ってください! 連絡先を教えて下さい。ハンケチをお返しして、お礼をしたいので。」

引き留める山林に対し芋平は魚の目で「それはあげます。アケミさんと仲良く使って下さい」

と言って帰っていった。


アケミはキョトンとして「芋平さん…」と小さな声を吐き出す事しか出来なかった。

その後帰るために山林と二人で夕暮れの坂道を無言で歩く事になった。

先に口を開いたのは山林であった。

「アケミさん大丈夫なのですか? 倒れましたけど。天ぷらがお口に合わなかったでしょうか。」

「とんでもないわ! あんなに美味しい天ぷらは食べたことがありません。山林君、ありがとう。山林君こそ大丈夫なの?」

「大丈夫です。これくらいへっちゃらですよ。それより…アケミさん。」

「なあに?」

山林が真剣な面持ちになる。「倒れる前に歌っていた歌の事だけど…」


アケミは色々思いだし、恥ずかしさで顔面蒼白になり、逃げた。

アケミはタクシーを拾い、時速60キロで逃げたため、さすがの山林も追い付けなかった。

アケミは適当な所でタクシーを止め、降りると恥ずかしさのあまり顔を手で多いながら更に走った。

ドシン!


「いつぅ」

誰かにぶつかり、今度はアケミがいつぅとなった。芋平だった。


「アケミさん! 大丈夫ですか! お顔を隠してどうなすったんですか!」

芋平もぶつかってこけていたが、アケミを真っ先に心配していた。

「あら芋平さん! ごめんなさい。私ったら。お怪我はありませんか?」

「僕は大丈夫です。アケミさんは」

「私も平気よ。少しいつぅとなっただけだわ。それより先程は何か様子がおかしかったけれど。」

芋平がギクとなり、立ち上がり後ろを向いた。そして絞り出すようにこう言った。


「ハンケチは…アケミさんに使って欲しかったんです。」

アケミはドキンとした。

「山林青年のために用意したのではない! アケミさん、あなたのためだ!」

アケミは動揺し、また逃げようとして転倒し断念した。

「アケミさん逃げないで! 僕の事が嫌いですか!?」

「嫌いもなにも、まだ出会ったばかりでなにもわからないわ!」

アケミは叫んだ。


「出会ったばかりでも僕にはアケミさんの羊羮のような魅力がわかりますよ!」

「まあ!」

羊羮だなんて言い過ぎよ、何がわかるというの、何がわかるというの、と思いながら何度も走ったりこけたりしたアケミの術後の傷は徐々に開いていった。

「アケミさん、おなかから何か出ています」

お腹の傷から黄金の天ぷらが出てきた。


「これが私の気持ちだわ。私は天ぷらが好きなのよ。天ぷらがあればそれでいいわ。芋平さん、ごめんなさい。天ぷらと暮らすわ。」

そこへ随分走った様子の山林が現れた。

「アケミさん! 音楽室で告白してくれたよね? 僕もアケミさんの事…」


すると天ぷらがキラキラと輝き、巨大化し、手足が生え、アケミをエスコートした。

「山林や芋平より天ぷらである僕と一緒にサクサク暮らしませんか?」

アケミは「山林くんに惹かれていた理由は、どことなく漂う天ぷら、あなたのスメルのせいだったと気づいたの。私は天ぷらしか愛せないわ。共に揚がるその日まで…」

と言うと、天ぷらと手を繋ぎそのまま地平の彼方へ消えていった。

残された芋平と山林はしばし顔を見合わせ苦笑しあうと、なにくそあんなアケミなぞ。自分達も天ぷらのように魅力的な青年を目指してカラリと揚がり続けるぞと笑いながら会話し、会話し続け、気づくと二人合わせてマッシュポテトになっていて、そこには行列が出来たのであった。


おわり









実家のシャンプーがダウアーだった   2011.05.01 Sunday   00:00   -   trackbacks(0)
「しゃっとゆあまうす」
 

遊園地。行ったことがない。もう35になるのに友達もいないし、女性なんかとは付き合った事もないから遊園地という場所は謎ばかり。

一度位遊園地に行ってみても良いのではないか。自分のような腐った鯛めしのような人間でも行く権利はあるのではないか。そうと決めたら善は急げだ。家で一番高価な魚のプリントがされたジャンパーを羽織り、小走りで家を出た。


各駅電車で8駅先の「花のロンド」という昔からある遊園地へ向かった。


今日は小雨の降る平日のため人が少ない。花のロンドは凄く人気のある遊園地というわけではないので、待ち時間というものは存在しないと思われる。


それでも初めてきた遊園地に、興奮を隠し切れなかった。

「うおー、これがあのテレビでしか見た事がない観覧車か。」


小声で独り言を呟きながら進んでいく。


「ん? ここは何だ? 建物がある。入っちゃってみよう。」


入っちゃってみると、ゲームセンターだった。

「ほうほう…遊園地にはこのようなゲームセンターも。ん、これは昔デパートで見た事あるな。飛び出してくるワニを叩くゲームだ。」


ワニのコーナーを見張っている女性がいるようであった。大人しそうな黒髪の、同じ位の歳の女性か。険しい顔で見張っている。確かに犯罪しそうってたまに言われるけど、実際何も悪い事などしないのに…と思いながらゲームセンターを出た。


売店でアイスクリームを買って、歩きながら食べる。これだけの事だが、凄く新鮮で、楽しく感じる。心がダンパのお立ち台で躍っている感じだ。ダンパ未経験者だが。


「よし、この調子で絶叫に…」


絶叫マシーンの方に向かっていった。

なにぶん一度も乗ったことがないので、いきなり乗るのはかなり不安だった。想像も出来ないような怖さで、ガタガタ震えてちびってしまっておしっこを空から振りまいてしまったらどうしよう…生きて帰ってこれるかな…


とりあえず下から様子を見てみる事にしよう。


絶叫マシーンには「激烈! ウツボカズラ」と書かれている。この「花のロンド」のアトラクションは、どうやら全て植物由来のようだ。

ウツボカズラは虫を食べるからなぁ。そういう意味での恐怖感をじわじわあおっているのかな、などと考えて、落下地点がよく見える場所でアイスの残りのコーンをかじりっていた。

ゴウゴウという音がする。既にマシーンが発車しているみたいだ。ボーっと眺める。

人が少ないので乗っているのは4人程度だ。先頭に一人で乗っているのは女性のようだ。
どんな驚く声を出すかなぁ、「ひゃぁん」とか言うかなぁ、と観察していた。

一番高い地点でマシーンが数秒停止している。こんな風にタメを効かすのか、これは怖そうだなと思いながら最後のコーンのかけらを口にほおりこんだ。


すると、

だんだん


せまってきた。


大口をあけて、歓喜に満ち溢れた顔で、まるで自分目掛けて飛び込んでくるような、歪んでいて綺麗とは言えないがとても純粋そうで素敵な女性の顔が。


「わっ…」


これ、さっきのゲームセンターの女性だ。こんな顔するんだ。凄く楽しそう。凄く可愛らしい。一瞬にして恋の渦に落ちてしまった。



その日は他に何をしてもどこを見ても頭に入らず、そのまま家に帰った。帰る時降りる駅を間違えたが顔はニヤけていたため、子供に「キメー!」と指をさされたりしたが笑っていた。



次の日から彼女の行動を調べる日々が始まった。人はこれをストーキングとおっしゃるかもしれないが、違うんだ。いや、違わないのでそこは否定せず、また遊園地に行き、閉まる時間まで待ち、彼女が出てくるとこそこそと後をつけるのである。


彼女はあまり目立った場所にはいかないようで、買い物をする場所なんかも主にスーパーマーケットや地味なブティック、文房具屋等といった感じであった。私のような木枯らしの如く無口で地味な男性とも気があうのではないかという勘違いを消すことが出来なかった。


このようにしばらく様子を見ていると、彼女がほぼ毎日一定の時間に路地に入ってくのが見えた。

そこが唯一彼女の不思議な行動であったためとても気になり、こっそりと路地を覗いた。
ストーキングではない、覗キングだ。


複数の集団がいて、彼女はその人達と共に円陣を組み、一緒になって手を上げたり下げたりしている。


翌日も翌々日も、彼女はその行動をとっていた。


宗教か何か、怪しげな活動をしている事はわかった。

自分は特定の宗教等を持たないため、少し引っかかりを感じたが、毎日ストーキングや覗キングをする位彼女に夢中なので、まぁいっかと一瞬にして思った。


それからは、その宗教的な集まりに対しても調べてみる事にした。

自分はとにかく機械に疎いし、たまの短期バイトでぎりぎりの生活をしていてお金も無いためインターネット検索等が出来ないので、地道に尾行という手段を使い、足で情報を稼いでいった。一流探偵の気分だ。


すると、ある言葉を会員同士が何回も発している事と、特定のピンク色のおモチのようなものを全員が食べている事がわかった。


おモチは「せんふくもち」というそうだ。路地の近所で大量に販売している店があった。

このような怪しげな会の象徴的食べ物として使われている事を店番のおじいさんは知っているのだろうか、等考えたりもしたが、まぁいいか関係ないし、と家に帰った。



「お口を閉じて〜わらいましょ」

次の日私は遊園地のゲームセンターに行き、調べてあの会の合言葉であるとわかったこのセリフを、女に聞こえるようにかなりわざとらしく3回ほど言ってみた。勇気がいったが、少しでも近づきたかった。


女の表情が明らかに変わり、こちらをチラチラと見ている。

よし! これでお近づきになれる。頑張った自分にご褒美! そう思い、この間の店で買ったせんふくもちをビニールから取り出して、もぐもぐと食べた。

すると女がカツカツとこちらに近づき、私の腕をグイと思い切りひっぱり、奥へとつれていった。

やばい、そんなに効果が!? もしかしてもう好きになってくれたのか!? 告白か!?

心臓がドキドキして、震えて叫びだしそうだった。

二人とも黙っていた。自分に関しては、何を言っていいのかどうしていいかわからなかったからだ。まだ結婚は早いかな…いや年齢的には全然早くないんだけど付き合った期間が。そもそもまだ付き合ってないな実は喋ったこともないし…色々考えてしまい、心の準備が出来ていない。


すると女性が呟きだした。

「小さな口、弱気な声、せんふくもち、合言葉…」

「あなたは我らがサークル「しゃっとゆあまうす」の幻の総帥なのでは!?」

ん!?

別の意味でびっくりしすぎて無言になってしまう。幻の総帥!?

「無口だし…やっぱりそうだわ!」

何か壮大な勘違いをしているようだが、女性が好意的に見てくれているのが嬉しくて嬉しくて、私は目を輝かせて黙ってうなずいた。



するとその日からはじまった。私の天国がはじまった。

女性が毎日家に迎えに来ては、料理を作ってくれたり、色々とお世話をしてくれるようになったのである。

なんという事だ。幸せすぎて死んでしまいそうだ。でもこれって勘違いなんだよな…この勘違い、一生終わらせてなるものか! 死ぬまで幻の総帥のふりをして、共に白髪の生えるまで!!


そのうち他の会員達も自分を崇める様子で、明らかにチヤホヤしてくれるようになった。


これまで人との交流が殆どなかった自分の人生にこれは刺激的すぎて、毎日が余りに幸せすぎて、家で一人になり一日を反芻すると喜びと興奮で涙が出る位だった。不満点と挙げるとすれば、せんふくもちがまずいという事位だ。でもここはうまいと言って食べておかないとと思い、笑顔で毎日食べていた。まぁそれだけの事だ。幸せの方が10億倍でかい。


さてさて、この幸せをもっと持続させるために、もっと総帥らしい事が出来ないかな? うーん、それは…あれだ。お洒落だ。


行った事がないバッグのお店に行き、色々見ていると、ワニのロゴがついているお洒落なバッグがあった。女性はワニのコーナーで働いているし、益々いいだろうという事でこれを買った。


そして次の日、路地裏に行き、見せていないようなポーズで、でも相手に確実に見えるように、うまいことこれみよがしにワニマークの存在をアピールし続けた。


すると一人が気付き、他の二人程をひっぱり路地から出て、なにやらコソコソと話をしている。褒めているのか? 目の前で言ってくれたらいいのに。

するとその三人が自分以外の残りの全員を路地から連れ出し、そのまま帰ってしまった。


そこで、幸せは終わった。


それ以来、女性も一切家に来ることはなくなり、集まりに顔を出しても全員に無視をされ、また自分は居場所を無くした。


もともと勘違いでもてはやされただけで、それを否定せず楽しんでいただけで、こんな事になるのは自分のせいで当たり前だし仕方ない、いつもどおりの自分に戻っただけ…と思っても、悲しくて悲しくてやりきれなかった。


完全無視されて三ヶ月程経過した。


寂しかった。寂しくてたまらないため、寂しさを紛らわすのと、どうしても女性に会いたい気持ちで、つい遊園地へ行ってしまった。みっともない。


色々な交錯する思いを吹っ切るように、初めての絶叫マシーン、「激烈! ウツボカズラ」に乗ってみる事にした。

チケットを買い、階段を上っていくと先頭が空いていたため、そのまま吸い込まれるように先頭に乗った。

ゴウゴウと音をたて、マシーンが動き出した。最初はゆっくり、坂を上に向けてガタンガタンと昇っていく。


てっぺんにつくと5秒ほど止まったが、それが永遠にも感じられ、落ちていく瞬間、ここ数ヶ月の事を思い出し、「わああ」という声と共に涙が溢れた。


全てのコースを走りぬけ、階段を降り、涙もふかずボーっと突っ立っていると、あの女が来た。


来てくれた…来てくれた。会ってくれた。
でも凄く冷たい顔をしている。当たり前だ…


どうしようと思ってとりあえず涙を袖でこすると女が
「元総帥様、これを食べれば元気出るわよ」
と皮肉交じりに言って、せんふくもちを手渡して来た。

また涙が出てきた。

「くそまじぃ」

と思いながら泣きながら食べた。

まじぃ食べ物のまじぃ血で出来ている奴らがウメぇはずねぇと思いながら、でも総帥と知っていた時はあんなに優しくしてくれたじゃないと思いながら、嘘つきの自分にあんなに…。一番まじぃのは自分だと思いながら、まずいせんふくもちを泣きながら食べた。


自分は女からのせんふくもちのおかげで少し素直になった気がしたので、女になぜあのような会に入っているのか尋ねてみた。

「悪しきワニを倒してくれるからよ」

女は強い瞳でそういった。

「貴方はワニのロゴのバッグを持っていたわね。うちの会ではワニは敵なのよ。貴方は知らなかったのね。だから嘘だと気付いたのだけど。

ワニは口がでかいでしょう。不快な大声でよく喋り、嫌な事を吹聴する悪しき人間達の象徴として私たちのサークルではワニを嫌って戦っているのよ。

ワニを叩くゲームのコーナーで働いているのは、人々がワニを叩くのを見るのが楽しくて仕方ないから。」


一言一言かみ締めるような女の言葉は、友達の出来ない自分にはよく理解できる気がしたが、それでも真っ先に浮かんだのは、「そんな事しても…」という言葉。しかしそれをこの女には言ってはいけないのだろうと思い、飲み込んだ。


女もわかっているようで、自分の表情からそう言いたいのは察したようだ。


「わかっててどうにもできないから、こうするしかない。」と言って女性は少し笑った。

自然に自分の口からこう出ていた。


「ジェットコースター一緒に乗ろう。」


乗り終わり、歩きながら女に「落ちる時の顔、大口開けたワニみたいだったよ」と言った。湿っぽい空気を吹き飛ばそうと冗談を言ったつもりだったが、女性が黙ってしまった。
自分はやっぱり冗談のセンスもないなぁと反省していると、女が結構強くバッグで自分の頭を叩いてきた。

「いてっ!なにす…」

そう言いかける間もなく、女は女自身の頭もバッグで思い切り叩いたあと笑ってこう言った。

「これ仕事なんで」


「痛いなぁ」


「痛いわね。

でもちょっとだけスッとするわね。

あんた、これからもここに来て、ジェットコースター乗りなさいよ。叩くから。」

その時、夕焼けの方向に向かって、子供達がワーと走っていった。

「まぁ、じゃあ、明日も来ます。」

そう言うと、心の寂しさが少し消えてゆくのを感じた。


おわり






実家のシャンプーがダウアーだった   2010.11.28 Sunday   22:11   -   trackbacks(0)
とても枯れ草
 

引き出しの中には乾物が沢山入っている。いつでも引き出しを開けてぽりぽりと食べる為だ。

でも、同居人に見つかりたくない為、引き出しに鍵を掛けてはこっそりと開け、見られないようにぽりぽりと食べている。

なんだかすべてにおいてそんな風なので、どうやらほとんどの人に意地汚いと思われているのはすごい勢いで伝わってくるのだが、実際意地汚いので、これからも意地汚く生きて行こうと決意を新たにする。

今朝はお茶を入れたら茶柱が立った。お、と思ったが、その時の同居人の顔がすごかった。ぷるぷるしているのだ。

茶柱の事をじっと見つめながら、頬にばれない程度に空気を溜めながら、赤ら顔でぷるぷるしているのだ。

ああー、この人くやしいからって念力みたいの使ってるつもりで茶柱倒そうとしてるんだー、というのがバレバレの顔だったので、切なくなった。

茶柱のせいで、まず一つ嫌な事が起きた所で、一日が始まる。


さて、今日も工場で糸巻き棒の形を整える仕事に行かなくてはならないので、それっぽい格好をして家を出ると、道端にたくさんの松茸が生えていた。

もう、松茸だらけだ。なので、臭い。

幸い近所の奴らはまだ気づいていないようだ。この匂いではすぐに奴らは起きてきて、我先にと松茸をもしゃもしゃ食ってしまうに違いない。意地汚い私に、そんな事が許せるはずがない。

だから、シャシャシャーっとそこいら中の松茸を猛スピードで近所の目の確認も怠ることなく一つ残らず刈り取って、ナップザックに詰め込んで、匂いを放出させながら、何事も無かったように工場へと向かった。


家から徒歩12分ばかりの所に工場はある。わりかし近所だ。

しかし面倒くさい。徒歩で許せるのは3分までだ。しかし、このけち臭い私に自転車を買うなどという事が許されるはずはないので、毎日徒歩で向かう。

いつも通勤中大体考えている事は同じだ。メートルのMという字が頭の中で伸びたり縮んだりしているのだ。

しかし今日ばかりは違う。バッグに大量のおマツタケをつめている今日だけは違うのだ。

おマツタケを落とさぬよう、ばれぬよう、盗まれぬよう、最大限の注意を払って、一歩一歩着実に歩く。

あまりに一歩一歩着実に歩きすぎただけに、遅刻をした。あぁ、こんな日に限って遅刻をするなんて。あぁちくしょう。上司の説教が始まる。おマツタケがバレる。

「君、君は仕事が出来ない上に遅刻までするのかい。でしたらうちの会社には君は要らないという事にもなりかねんですよ」

…早く。早く終わってくれ。話など聞いていない。おマツタケだ。今はおマツタケである。

その時…


「ん? 何かにおいが…」


「においですか。きっと上司のにおいですよ。いつもファンタスティックな香水をつけていらっしゃいますもん」ご機嫌をとる。

「いや、香水などつけていない。また適当な事抜かしやがって。君がきてからにおいがプンプンする。君だろう? 君、風呂に入っているのかね、というレベルを超えるにおいの放出量だ。君、お風呂に入っているのかね?」よし、ただの臭さと勘違いしている。

「実は風呂釜が壊れてしまい、お風呂に入っていないのですよ。遅刻したのも、風呂釜をカチンゴチンと直していたからなのですよ」われながらナイスな言い訳だ。

「そうだったのかね…それならば仕方がない。しかし君、夢中になって風呂釜を治していたのはいいが、遅れるなら遅れるで、電話連絡の一本くらい寄こしなさい。では、仕事に向かいなさい。今日もたくさんの糸巻棒を作ってもらわないと、採算が合わなくなってしまうからね。」

「はい、では向かいます」

ほっ…なんとか切り抜けた。話のわかる上司で良かった。そうしてロッカールームへと向かった。


ガチャ…


ロッカールームについた。遅刻したから誰もいない。

このおマツタケをロッカーにさえ入れてしまえば、帰りまではバレる事がないだろう。ロッカーには強力な鍵がかかっていて、臭いなんかももれる事はないのだから。そうすればあの私よりは意地汚くないけどわりかしに意地汚いあの連中から、この大事なおマツタケを守る事が出来る。と、思いながら、ロッカーの鍵を開けた。

パカッ。ドサドサドサ…

漫画ゴラクが300冊程落ちてきた。これは意地汚い私が道端で拾うたびにロッカーにしまっていた結果である。毎日これを落としてはしまいなおす所から一日の仕事が始まる。

このゴラクの奥におマツタケ入りリュックを隠そう。すると、三つ程奥のロッカーの中から声がした。


「臭いですね」


誰ぞ!?


岡山瞬さんだった。背の小さい私よりか少し先輩の仕事が私と同様に出来ない人だ。なので勝手に少し仲間意識を持っている。

しかし意地汚いので、そんな瞬さんにも、このおマツタケはあげたくないのだ。

「瞬さん、居たんですか。おはようございます。」瞬さんも黙ってうなずく。そしてまたこういった。

「それよりも君、この匂いはなんだい?」

私は言った。「瞬さん。私は匂いなどしませんよ。急に鼻に何かの成分が入ったんじゃないですかね? 流行病じゃないでしょうか? すぐに医院に駆け込んだ方がいい。ほら瞬さん急いで下さい。早く!」

瞬さんはおののいた顔をして、すぐに医院に行って来ると言って去っていった。

優しくて素直な瞬さんをだますのは心が痛いが、おマツタケをあげる方が心が痛くなるはずなので、そこはグッとこらえ、ロッカーに鍵をかけ、すぐに支度をして仕事場へ向かう。よし。これで安全だ。


安心した所で、今日も今日とて糸巻き棒を作らねばならない。労働意欲のきわめて薄い私だが、自分が作った糸巻き棒が世に売り出されている時なんかは、さすがに気分が高揚する。

「これは私が作ったんだよ。このカーブに絶妙な特徴があってね」なんて若い女性を口説きたいものだ、なんて思ったりする事もある。

しかし仕事はやはり疲れる。お給金のためでなかったら誰がするものか! などと考えたりもする。この考えは多分意地汚さから来るものではない。至極まっとうな考えではないかと思われる。

しかし世の中には「辛いけれども仕事が楽しい」から仕事をしている人も多分に存在する。しかし特徴が意地汚い、だけの何の取り得も無い自分に、向いている楽しい仕事など存在しないと思われるので、あまり複雑な技術を必要としないこの仕事を10年前からやっているわけだ。

さすがにダメな自分でも、10年も働けばそれなりに仕事はこなせるようになってくる。しかしマンネリな毎日だ。マンネリが嫌いなわけではない。マンネリだなぁって思っただけだ。さて、遅刻しているし考え事はやめ、急いで仕事にかからねば。


ザクッ ザッ ザッ ザッ…
ザザッ ザクザクッ


各々が自分のペースで糸巻き棒をいい形に削る音が重なり合う。

これが仕事している間中の、全ての音だ。

私はこの空間が嫌いではない。個々の削るリズムがずれて重なり合って、飽きる事がない。かといって作業はやはりそれ程楽しいものではない。1つの棒がいい形になったら、次の棒に取り掛かる。何本も何本も。

終わりが見えない。毎日の事だが、やはり気が遠くなる。私なんかは意地汚いので、木屑は何かに使えそうだ、と持ち帰る事もある。今日はやめておこう。おマツタケで手一杯だ。


ザクッ…ザザクッ…


キーン コーン カーン コーン

ふう、やっと昼休みだ。


工場の3階が丸ごとお昼を食べる場所になっている。

横長の机がいくつも並んでいる。みな弁当を持ちより、一斉に食べ始める。中には愛妻弁当なんかを持ってくる人もいる。意地汚い私は、それ程親しくない人の愛妻弁当でも、海苔で作ったハートの部分だけ貰ったりする事がある。それにより「海苔が異常に好きな人」と思われる事に成功したので、最近では勝手に人が海苔をくれたりする。非常に嬉しい。

さして親しい工員もいないが、村八分にされているというわけでもなく、それなりに普通にやっている。

旧型のテレビが高い所に1つ置かれている。そこから「お昼は笑おう! 良い良いGOOD」という国民的番組がいつも流れている。それを見ると私はウンザリする。良い良いGOODの主題歌の最初の三味線が流れるだけで、気分がなぜか萎えてくる。多分、小さな頃からずっと楽しい日も辛い日も耳にしているせいで、なんとなくウンザリするのだろう。

「〜〜今日も〜いい日だね〜。ね? ヨイ♪ヨイ♪グッ!」調子者の工員が必ずそこで立ち上がって大きく指を突き出して「グッ!」っとやる。なんとなく笑いが起きる。みんな元気だなと思う。

水筒に詰めたカツオと煮干のだし汁とごま塩をかけたご飯をゆっくり食べながら、実は誰かの海苔を待っている。

誰もこない。仕方ないのでさっさと食べ終わると、若葉に火をつける。遅れて部屋に入ってくる人がいた。

病院から帰ってきた瞬さんだった。何やら深刻そうな顔をしている。

「ちょっと来てくれませんか?」瞬さんは入り口付近にいたベテランの若林さんに声をかけていた。

ドキリとした。流行病でない事がわかって適当な事を言った私に文句を言いにきたのではないのだ。すると、バレたか!?

とりあえずわざとらしく瞬さんの元へ向かう。

「あ、瞬さんおかえりなさい! 病院の方は…」色々誤魔化すように聞くとさえぎるように瞬さんが言う。

「いや外に出たら匂いが全くしなくなったのでね、変な病気ではないと思い病院には行っていないんだ。それですぐに戻ろうとしたのだけれど、三丁目の佐野内さんのお宅の植え込みが綺麗でね、三時間程見とれてしまったんだよ。…これは班長さん等には内緒にしておくれね?」

…まぁ、とりあえずなんだか少しホッとする。少しのん気な性格の瞬さんで良かった。意地汚い私なら、病院に行っていたらきっと内心診察代がどうのこうのでのた打ち回っていただろうからなぁ…いや、問題はそこではない。若林さんがあきれてこう言う。

「瞬さん、用も無く三時間も仕事外されてはたまらねぇよ…しわ寄せは全部俺達に来るんだぜ? 糸巻き業界だってそんなのん気な状態ではねぇんだから…」

「す、すみません!」瞬さんが言う。これは自分のせいでもあると思ったので私はすかさず「そ、それで瞬さん、病気では無かったのなら、何が問題なのですか? その、何かあったように見えるのですが…」

バレたのならすぐにでも何とかしたい。と私はあせった。

瞬さんが少ししかめたような、変わった顔をして言った。

「うーん、言いにくいのだけれど、流行病は私ではなく、君の方なのかもしれない、と思うのだけど…」

「へ?」

流行病の経緯を全く知らない若林さんはポカンとしたような顔で二人を見ている。

「どういう事なのでしょう? 私はご覧の通り、元気にしていますよ?」正直よくわからない。

瞬さんはまた言いにくそうに顔をしかめて言った。

「とにかく、二人ともロッカールームに来てくれないかい?」

…まずい。そういう事か。

行きたくないので無茶を承知で言ってみる。
「誰も私達の話を聞いていない様子なので、場所は変えなくても平気だと思いますよ。私なら何を言われても平気なので、ここでお話しませんか? ほら、お昼休みもそう長くはないですし…」
あと15分だ。少しでも話して時間を減らそう、という気持ちもあった。

瞬さんは間髪入れずに言った。「君が僕を思いやってくれたように!」

なんだ!? 私の頭はおマツタケ色のまっ茶色パラダイスだぞ!?

瞬さんが続ける。「僕だって大事な仲間の君が流行病ではないかどうか心配なのだよ!」


大きな声にみんなが一斉に振り向く。

まずい、事が大きくなってしまう。

「わかりました。とにかく行きましょう。若林さんはここに…」「若林さんも来て下さい。行けばわかります。」いつもはのん気な瞬さんが、この時ばかりはまるで敏腕探偵のようだ。

若林さんは全くワケがわからないながらも、いつもと違う迫力のある瞬さんに飲まれ、真剣な面持ちで「とにかくみんなが見てるから、急ごう。時間もあまり無いし」と言って、三人はロッカールームへと向かった。

ロッカールームに向かう最中、少しでも時間を引き延ばそうとわざところけてみたりした。が、その不自然なころけ様がますます瞬さんの流行病疑惑に拍車をかけるだけとなり、全く意味を成さなかった。

そしてすぐに一階のロッカールームに着いてしまった。

私の様々な黒くて汚い思惑をよそに、瞬さんが力を込めてドアを開けた。
「いきますよ!」

ガチャッ

「むほぅっ!」

若林さんが奇声に近い声をあげてのけぞった。

私も驚いた。

部屋中から、ありえない程のおマツタケの匂いがボハッと噴出してきたからだ。

頑丈に鍵をかけて匂いがもれるはずのない私のロッカーは、無数の漫画ゴラクと詰めすぎたおマツタケのせいで、ドアの一部が崩壊していた。そのせいで匂いがもれまくっていたのだ。

「どういう事だい瞬さん、これは!」若林さんが目を丸くして声を荒げる。瞬さんは深刻な表情で私に言った。

「君、本当にこれの匂いがわからないのかい? 先ほど君が私に流行病だと言った時も、こんな匂いがしていたよ。この匂いが本当にわからないのだとしたら、鼻づまりや鼻炎といったレベルでは到底ないと思うんだ。専門的な事はわからないけれど、心配なので君こそ医者に行くべきだよ。どうなんだい?」

若林さんが続ける。「え? お前これがわからねぇのか? それは無いだろう!? なんだなんだ? よくわからないが、それは多分いけねぇ事だよ!」

…予想していた通りの困った事になってしまった。この匂いがわからないフリをして病院に行った所で、この匂いが消えるわけでなし、何の解決にも絶対にならない。

瞬さんが少し泣きそうな顔で「どうなんだい!?」と聞いてくる。

「何なんですか! この匂いは! いや、わかりますよ瞬さん。若林さん。この不思議な匂いは何なんでしょうね? さっきは朝だったからか頭がボーっとしていて本当に気がつきませんでしたが、今はハッキリとわかりますよ! これは異様な事ですよ!」

私は必要以上に大きな声で必死に喋っていた。私の薄っぺらい頭はフル回転で、この場をどうしのぐかだけを考えていた。いやだ。おマツタケ、一本たりとも取られたくない。絶対。守る。おマツタケ。

瞬さんは瞬く間に笑顔になった。「なんだ! わかるのか! 心配しすぎてしまったようだよ! 朝は誰だって疲れているものだもの。そういう事だってあるさね! 今わかるなら心配いらないだろうさ!」

なんて心優しい瞬さん。洗濯洗剤等のCMを思い出した。「際立つ白さ!」とはよくいったものだが、今はまさに自分の黒さ際立つ瞬間であった。話の論点が若干ずれている事にホッとしている暇はない。

「瞬さん、本当に心配してくれてありがとうございました。今朝はこの匂いに気づかず、瞬さんを病院に向かわせてしまってすみません。」

「いや、いいんだよ! 君は本気で私を心配してくれた。その事が僕にはとても嬉しくて!」瞬さんの笑顔で、ますます黒さ際立つ。

だがだてに黒いわけではないのでそこは流して私は続けた。

「よかった! 疑惑が晴れましたね!これでもう何も問題無いでしょう! さ、昼休み、後5分! 速く持ち場に戻りましょう! 若林さんも、来てくださってありがとうございました!」明るく、元気良く。

「いやいやいやいや! まてまてまてまて」

…しかしどうやら私の明朗快活な様子は余計に若林さんを混沌とさせたらしい。

「何で俺、呼ばれたの?」

そっちかよ、と思わず口に出そうになったが、内心ナイス若林さんと思った。鳩が豆鉄砲を食らったような顔、とはコレか?

「私と彼だけで匂う、匂わないと言っていてもラチがあかないと思い、第三者の若林さんに検証に来て頂いたのですよ。」今日は名探偵モードの瞬さんがスラスラと答える。

私は時計をチラチラ見ながら「若林さん、そういうわけで、本当に助かりましたよ。何しろ私が病気等では無い事がこんなにもあっさりと証明されたのですから。あ、あと3分だ! 早いところ、持ち場へ戻りましょう!」一刻も早くここから出たい。

「…いやいやいやいや、そうじゃないだろ。何なんだよこの匂いは!」

ギクリ。

やっぱりそうなるよな…でも仕事熱心な若林さんなら、残り時間の件で説き伏せられるだろう。

「何なんでしょうねぇ…たまにありますよね、こういうの。そのうち消えるんじゃないですか? さぁ、仕事仕事」私は必死だ。

若林さんの顔つきが明らかに変形している。まるで変身ロボ的だ。「いやいやいや、たまにねぇよ! こんな匂いたまにあってたまるかよ! この状況で仕事とかじゃねぇだろ! これ、アレだぞ…、ヤバイアレなんじゃねぇのかい?」とりあえずおマツタケとは思われていないようだが、話が変な方向に行っている。でもここは、利用させてもらう。

「そうですよヤバいアレですよ! ガス系ですよ! ヤバイ! 嗅ぐとヤバイですよ! 逃げましょう!」わやわやと騒いでみせた。それがいけなかった。

「すぐに警察に連絡だ!」私の発言が、若林さんの魂に火をつけた。若林さんは電話のある事務室に向かおうとした。瞬さんは何度も嗅いでしまった事もあり、パニック状態でくしゃくしゃの顔になって「ひぃ〜ん!」と叫んでいる。私の脳のファンのようなものは今凄い勢いで回転している。多分カラ回りでカタカタ言ってるのだろうが。

「ダメだ! 行ってはならない若林さん!」

警察など呼ばれたら全て終わりだ。0おマツタケだ。

「なぜだ!?」

凄い形相で若林さんが振り向く。それはそうだ。普通なら連絡しなければいけないだろう。しかし私は全てをかけた。

「警察は今忙しいんです! 今朝見たテレビで犯罪が多く警察があまりに忙しい為呼ばないで欲しいと言ってました!」私は若林さんを馬鹿にしているのか? いや、そうではない。必死なのだ。命。おマツタケ。

「えー!? だとしてもこれはいけねぇだろ! ガスだとしたら広まったら余計に被害が出て、もっと警察に迷惑をかけるんだぞ!? わかっているのか!?」当たり前だが凄い剣幕だ。瞬さんは泣いている。

「わかっています! 全てわかっています! なぜ人間は生きているのかすらももはやわかっている私なのです! だから任せて欲しい! 絶対にみんなは大丈夫! だって私は全てわかっているのだから!」大声で早口で、勢いのまままくし立てた。

若林さんはちょっと気圧されている様子だ。「何そんなわかってんのか? お前さっきこれガスだって言ってたじゃねぇか! 何なんだお前? 何とかする術を知ってるのか?」

私は握りこぶしを上に突き上げて言った。

「私が一人で何とかしますから、お二人はここからはなれて下さい!」

瞬さんが若林さんの服の裾を泣きながら引っ張っている。瞬さんが乙女なら絶対抱きしめたい所だ。しかし振りほどいて若林さんは叫んだ。

「お前一人見殺しにできねぇ! 俺も行く!」

熱い。やっかいだ。おマツタケ。バレる。私もなおも叫んだ。

「大丈夫なんです私はわかってるから犬死はしません! わかってるんです私は大丈夫だって! そして瞬さんと若林さんはここにいると危険だって事もわかってるんですよ!」力の限り。

若林さんは完全に混乱している。「わからねぇよ! あ、まて! 行くな! 行くな!」

「若林さんは来ないで!」

私はロッカールームに突進して、内側からドアを閉めた。

外から若林さんがあけろ! あけろ! とドンドンしてくる。早くなとかしなければ…力の強い若林さんはドアを壊して入ってくるかもしれない。警察に連絡するかもしれない。早く…早く!

とりあえず私は壊れたロッカーの鍵をあけて、完全に開け放った。

ドサドサドサバサーーー!

いつにもまして凄い音だ。長年使っているリュックに詰め込みすぎた上に本で圧迫されたせいか、薄い布がはじけてバラバラバラーとけたたましい音と友におマツタケとゴラクが一斉に落ちてきた。

「おいなんだその音はー! あけろ! あけろ!」ドンドンドン! ドンドンドン!

「大丈夫です! わかってるんで! 問題無しの音です!」私も叫ぶ。

「あけておくれね君ぃ!」震える声で瞬さんも叫ぶ。

「いや問題無しです! むしろいい音です!」ガサガサガサガサ。おマツタケをかき集める。

「ガサガサいっとる! なにしとんじゃー! いいから開けろやーーーー!」

ドガーーーーン! 若林さんが力の限りドアをキックしてきた。


ドガーン!

ドガーン!

ドガーン!

ドガーン!



バキャッ


「開いた!」

開けたと同時に若林さんが入ってきた。

「…あれ? くさくねぇぞ!?」


「おい、お前無事か!?」若林さんが少し距離を置いて問いかけてくる。

「…」

「お、おい、何とか言えよ…」相当困惑している。

「…」私は無言で首を大きく縦に振る。


「…おい、何だその頬…めちゃくちゃ膨らんでるぞ!?」


私はすぐに反対側を向き、ドアを蹴られている間に全て口と胃の中に放り込んだおマツタケを、必死で租借していた。

そして、両手を高く上げ、ダブルピースをして見せた。いろんな意味を込めたピースだ。


「何とかしてくれたのか? 何かわからないけどわかっていたというのは本当だったんだな? 何とかしてくれたんだな!?」少しホッとしたような様子の若林さんと、何が何だか解らずういーういーと泣く瞬さん。

私は無言でダブルピースを上下させている間に、大事なおマツタケを全て租借し終わった。

そして、ゆっくり振り返り、こう言った。

「全て終わりました。説明は、出来ません。ただ、説明しておいてほしいんです。」

若林さんは再び困惑した様子で「説明出来ないのに説明? 何がだよ? 何を言ってるんだ?」

意地汚い私は、精一杯の笑顔でこう答えた。

「昼休みが終えても仕事に戻れなかった経緯を班長に、です。私のした事は説明できませんが、私が会社の害悪と戦い、みんなの命を救いました。その為に大好きな糸巻き棒製作の時間を割いてしまったという顛末を、説明しておいて欲しいのです。要するに、この時間の給料の天引きは御免こうむるのです。」

瞬さんは感動して泣いていた。

若林さんは言った。

「お前そんな仕事熱心だったかや?」

私は満面の笑みでこう言った。

「募金よりは好きです!」

若林さんは笑いながら言った。「そういえばお前、凄く意地汚いもんな。でもたまには募金もせえよ! 金は回りモンだからよ!」といってガハハハと笑った。

瞬さんも泣きながら笑った。


三人は笑っていた。



私は今回の事で1つ大きすぎる事を学んだ。これはみんな知っておくべきだと思う。人生において大事な事だ。

「生で大量におマツタケを食べるとマズいし気持ち悪いしいい事は無い」という事だ。


現に仕事に戻ってから吐き気が凄くておなかの調子が物凄く悪い。意地汚いのでせっかく食べたおマツタケを吐き出したくない。だが吐き出さないと医療費が凄くかかりそうだ。

意地汚いので迷っている。




終わり














実家のシャンプーがダウアーだった   2010.09.25 Saturday   00:00   -   trackbacks(0)
『きねこの宿』





きねこは街の片隅のボロアパート二階にて売り物を磨いている。毎日磨いている。

売り物は自分の体。これを売り、(注)サモサを買って食って売って、買って食って売って過ごしている。

売り場は近くのうらぶれたボロ宿だ。ここに売り物の熟女が集う。

ある日青年がやってきた。紙切れを頼りにやってきた。青年はおぼつかない足取りで、口調もぷるぷるしていた。

「この電信柱に貼り付けられた紙切れに、きねこさんという女性とここのじゅ、住所が載って…の、のの、載っていたのですが…」

受付のおばちゃんは「ああ〜、きねこなら今日も出勤だよ」とぶっきらぼうに答えると、「きねこ〜! きねこ!」と大声で呼んだ。

きねこが部屋のドアを少しだけ開けこっそりと顔を覗くと、ギョッと驚いた。

青年はかなり若く、アイドルのような可愛らしい顔つきをしていたからだ。

要は好みだった。
きねこは焦った。

「まずい、チラシの顔はかなりというか相当、修正している。」

いつもなら客が好みでないから気にならないし、何を言われても平気だが、この場合は別だ。

嫌だ。アイドル系の彼に「写真と違って器量悪し」と言われたくない。どうした事か…

「きねこ! ご指名だよ! 早く出ておいで。何してるんだい!」

受付のおばちゃんの怒号が飛ぶ。

「おばちゃん待って。まだおしろいや紅を塗っていないのよ。」ベッタベタに塗っているが、咄嗟に言い訳をする。

「暇ならあったろう! 何をそんなもたもたしているんだい!」なおもキレるおばちゃんに、青年が不安を感じ焦ってきた。

「あの…こ、今度でいいので…」

おばちゃんは折角の客を失うと思い慌てながら、「待ち待ち! ここ座り! みかん食い!」と言うと青年を赤いアンティークの長椅子に座らせ、横にみかんの積まれたザルを置いた。

「おばちゃん家のみかんだよ。食わん気か?」と言い、半分脅したので青年は色々恐ろしくなり、黙って待つことにした。

おばちゃんはザルのみかんを一つ取り、皮をシャンデリアのように剥き一房食べながら「とにかくきねこは急ぎい! まったく何やってるだか」と吐き捨てるように言った後、種を青年に吐きつけた。

「あうつっ!」思わず青年が仰け反ると、「あ〜ごめんっけな。おばちゃんの腹巻きで拭いてやるわ」と言い、装着していたホカホカの薄ピンクの腹巻きで顔を拭いた。

青年は少し泣きながら「アスファルトジャングル……きねこさん…」と呟いた。

きねこはとにかくなんとかしなければと思い、お面を被る事にした。部屋に天狗の飾り物としてお面があったからだ。

「おまたせしましたわ! お部屋に通して下さい」

そう言うとおばちゃんは「待たせて悪かったねぇ、これ持って行き」と言い、おばちゃんのブロマイドを渡した。

青年は死んだ小魚の目でそれを受け取り、案内されたきねこの部屋へ向かった。

息を呑み、部屋の引き戸をそろりと開けるとそこには天狗がいた。青年はひぃと驚き、「あ、ま、間違えました」と言い、戸を閉めようとした。

きねこは間髪いれずに「私こそがきねこです。お入りください」と言うと、両手を孔雀のように広げた。

青年はしばらく戸惑いながらも片足ずつ部屋に入った。

「ようこそおいでくださいました。私はきねこ。チラシの写真の通りのきねこですわ。」

きねこは割りと厚顔無恥だった。

青年はきねこの前で水の中で冷えた豆腐のように緊張しながら正座している。滴る冷や汗をハンケチで何度も拭っている。

「何かおっしゃって下さらないの?チラシの通りのきねこなのに」

きねこは厚顔無恥だ。

青年は恐る恐る口を開いた。

「あの、きねこさん。なぜ天狗のお面を? お顔が見たいのですが…」

「あらぁ、これはね、価値のあるお面よ。昔餅祭りでここの店主が購入したお面ですから。」

青年はキュッと唇を結び、少し強い口調で言った。

「でも、餅祭りのお面より、きねこさんのお顔のほうが僕にとっては価値がありますから。」

きねこは胸キュンした。青年が素敵すぎる。もしかして修正していない顔でも受け入れてくれるのではないか。

「ありがとう。貴方、名前はなんておっしゃるの?」

「僕は福生です。岡山福生です。」

「あら、ふっささんておっしゃるのね。髪の毛がふさふさですものね。」

「はい。さすがはきねこさんです。尊敬する両親が、髪がふさふさになるように名付けて下さったんです。あと、若い頃福生に住みたかったらしいです。」

「あらぁ、素敵なご両親ね。頭をナデナデしたいくらい素敵だわ。」

「僕もそう思います。ありがとうございます!」

福生は顔がいい上に、道徳的で礼儀正しいのか。良い。きねこはジュンとした。

「ねぇ…」

「なんでしょうか?」

「お面、取ってもいいわよ。」

「本当ですか!」

青年は発光ダイオードのように目を輝かせた。

きねこは何も言わずにお面をゆっくりと外した。

青年はきねこの顔を凝視しながら凝固してしまった。

きねこは「あ、やっぱりだめだった」と思った。

誰もいないビルにいるかのような静寂に堪えかねたきねこが口を開こうとすると、先に青年が叫んだ。

「やはり!」

きねこはビクドキッとして「ひんっ」と言ってしまった。

「やはりだ…」

「何がなの?」

「ゾウリムシに似ている…」

「え?」

青年は沸騰したお湯のように顔を赤らめ興奮し、捲し立てるように続ける。

「電柱の紙切れを見た時、少しだけゾウリムシに似ていると思ったのです。どうしても気になってここへ来たんです。実物を見たら紙切れより断然ゾウリムシに似ていて、嬉しくて感動しました! 僕はゾウリムシのビジュアルが大好きなんです!」

きねこはとても複雑だった。
器量が良くないのは自覚していたけれど、ゾウリムシなのね。修正しまくった写真もゾウリムシだったのね。でも福生くんが好きならば嬉しいような…いや、嬉しいわ。と考えた。

「ありがとう。よく言われますわ。」

初めてだったがなぜかそう言った。

福生はまだとても緊張した様子で、右を向いたり左を向いたりして暑い季節でもないが「ふぅー」とハンケチで顔をぬぐったりしている。

きねこが言った。

「福生くん。ここが何のお店かはご存知でいらっしゃったのよね?」

福生は一瞬戸惑ったが、震える声で「はい。知っています。」と答えた。

「それなら福生くん。早速始めましょう。」

きねこは着物をスルスルと脱ぐと、福生の固唾を呑む音が聞こえる。

きねこは掴んだ。

部屋に置いてある大きなペンチを掴みとり、自分の腹肉に押し当てた。

そして思い切りペンチで腹肉を引きちぎり、手で捏ねて捏ねて捏ねて丸くした。

「はい。出来たわよ。」

そう言って腹肉の塊を福生に渡した。

「ああ…夢にまで見たきねこさんの腹肉…」

福生は頬を紅潮させながら腹肉を受け取ると、両手で顔のそばへ持っていき、目を閉じた。

ガンジス川の音が聞こえる。きねこがよく食べているサモサのせいだ。

しばらく堪能した後、福生は目を開けきねこに想いを告げた。

「素敵な人の腹肉は最高です。僕、初めてなんですこういうの。チラシでゾウリムシに似たきねこさんを見てから、どうしても腹肉が欲しくて仕方なくなりました。失礼ですがこういう所はいかがわしい場所だと思っていたのですが、実際に来て凄く心に平穏が訪れましたし、感動しました。ありがとうございます。」

きねこはとても嬉しかった。きねこが腹肉を売り続けているのはこういう言葉が聞けるからだ、と再認識した。

「良ければまたいらしてね。それとその腹肉は、置いておくと綺麗な蓮が咲くのよ。是非飾って下さい。」

「これは花が咲くタイプなのですか! 珍しいですね。僕や友人達の腹肉は、置いておくと部屋の消臭にしかならないのですが。」

「一応これで食べていますからね。ここの宿の女性の腹肉は、水道水がピュピュっと出るものから置いておくとつむじ風が起こるものまで様々ですわ。色々な女性の部屋を尋ねてみるといいわ。」

福生は初めての買腹体験にとても興奮し、何度もお礼を言うと去っていった。

きねこはちぎれたお腹を捏ねて捏ねて捏ねて元のお腹に戻すと、今日働いて得た金でサモサを買って食べ、また腹肉を蓄えた。

なじみのサモサ屋の店員に、「私ってゾウリムシに似ているかしら?」と尋ねると、「うーん、ゾウリムリはよくわからないけれど、人間じゃない何かだとは前から思ってました。」と笑顔で言われた。

きねこは笑いながら「そうね。それでも案外幸せよ。」と言うと、軽い足取りでボロアパートへ向かっていった。








きねこの注釈:サモサはインドの揚げ物よ。おいしいわ。






おわり





実家のシャンプーがダウアーだった   2010.07.23 Friday   21:50   comments(20)   trackbacks(0)
たられば
 例えばこのレバ刺しを食べたとしたら、私はレバ刺しが好きではないので気分が悪くなるかもしれない。

ではレバ刺しを食べるのはやめよう。

このドライマンゴーというのはどうだ? 最近時々見かけるが、味の想像がつかない。食べたらすごく変な味かもしれない。食後につまんでみたら食事自体が変な味だった錯覚に陥って、その後一日気分が優れないかもしれない。

これもやめておこう。

寒い。スーパーの鮮魚コーナーはどうしてこんなに寒いんだ。私は冷え性なので、冷えてしまうじゃないか。だがもう少しこの魚を見たい。吟味したいのだ。とはいえ自分は魚の目利きが出来るかといえば答えは「できぬ」だ。しかしここで鮮魚を真剣に眺めていたら、いかにも魚の調理を上手にこなす男性のようで、女性からの熱い視線を浴びるのではないのか。だからもう少し見ていたい。だが、寒い。

薄着をしてきてしまったのだ。もしも今日日中の気温が昨日より上がったとしたら、と家で考えたせいだ。もしも下がったら、も考えたのだが、基本的に厚着は好きではない。人間ははだかんぼうでいるべきなのだ。そうしたらあの人はいつもロックバンドのTシャツを着ている、あれ以外着る物が無いのかだなんて思われないじゃないか。

思われない方がいいではないか。だがしかし長袖はパンダの柄のトレーナーしか無いのだ。だから仕方なく薄着をしてきた。そしてこの仕打ち。寒いというこの仕打ち。確かに周りを見てみると、全員長袖だ。しかしいいのか?そこの40代後半風の太めな男性の薄いピンクのスウェットは、醤油の染みもついているし、お世辞にも格好いいとは言えないではないか。私はお世辞が上手だ。お世辞をいったとしたら女性に喜ばれる可能性があるからだ。そんな私がお世辞にも格好いいとは言えない醤油の染みのピンクのスウェットをスーパーに着てくるとはどういう了見だ?それともスーパーマーケットで女性に良く思われようとするのがそもそも間違っているのか?しかし私がデパ地下など行けるはずがないではないか。

デパ地価にパンダの長袖やいつも来ているくたくたのバンドTを着ていったらどうなると思うのだ。舌の肥えたセレブ層にバッシングされるのは間違いないではないか。他人はそんなに自分の事を気にしていないという事をよく言う人がいる。だが自分は自分が一番気にしているのだから、他人が塵程も気にかけていなくても、自分は気になって気になって仕方が無いのだから、こんなに気になる自分を他人が全く気にしないなんてどこにそんな証拠があるのだ。

それに趣味は人間観察と抜かす輩もおるではないか。人間観察とは何なのだ。そのアレは大体にして負の要素ではないか。「あの人は可愛い、あの人は素敵だ」なんていう観察を延々している人が「僕、私の趣味は人間観察です」なんて言うはずもない。嘲笑の要素が含まれているに違いないのだ。

その観察対象になるのは耐えられない。今日こんな人がいたよ。くたくたのTシャツを着ていて…なんて若人友達に語り継がれたとしたら私の心はどうなるのだ。もしもそれをたまたま耳にしたらどうなるのだ。ガラスの心臓とは言わない。むしろ何も考えていないのだろうと良く言われる私だが、そんな自分への誹謗中傷を直接耳にしたら、耳まで真っ赤になって自らハトの餌になりに行く事しか出来ないではないか。

それなのに今くたくたのTシャツを着ている自分はどうなのだ。こんな事を考えるなら、なぜちゃんと服を買わないのだ。

私は現在30歳前後だが、27歳前後まで母が選んだ服を着ていたのだ。私は母を尊敬していた。感性豊かなビオラの奏者であったからだ。しかし27歳前後の時、髭を蓄えたロシア人サクソフォン奏者に見初められ、再婚してロシアに行ってしまったのだ。なので自分で服を選ぶしか無くなった。

私は感性豊かな母の血を継いでいるため、自分も感性豊かだと思い、仕立ての良い服を選ぼうと勇み足でファッションリーダーしもむらへ向かった。

そこでわかったのだ。「わからない」

何をどうして良いのかわからないのだ。

何色がいいのか、どんな形が好きなのか、または似合うのかさっぱりわからない。

私は参ったため、しもむら店員の小柄なお姉さんを呼んだ。大柄な男性店員もいてどちらかというと暇そうだったのだが、陳列作業をしている小柄なお姉さんを呼んだ。するとしもむらの中では高めなジャケットを勧められ、そのまま買って帰ってしまった。

家に帰って空けてみたのは良いのだが、どれをどう合わせれば良いのかさっぱりわからなく、こんな事なら全身しもむらの女性店員に勧めてもらえば良かった、いや、それはなんだかいかにも感性の無さを露呈しているようで恥ずかしいではないか。と思い、服を買う事を止めたのである。

だけど家に母の服があるだろう、とお思いか?

昔母が選んでくれていた服は全て売却した。
感性が豊かだと思っていたので芸術で食おうとして働いていた会社を辞めて道端で絵を書いていたら一枚も売れなかった上に貯金が全て無くなったのだ。一枚も売れなかった事も感性の無さを表しているだろう。

さておき話は戻るが、どこまで戻ればいいのだ? 鮮魚を見つめる眼差しで女性の視線を集める件まで戻ろう。とはいえこちらだって誰でも良いわけではない。髪の毛がパンチパーマの女性よりは、サラサラストレートの若い女性の方が良いわけだ。そのような女性に料理の出来る男性だと意識され、頻繁に通う事により、意思疎通を図りたい。もっと言えば告白されたいのだ。

しかし一回断りたいのだ。自分には長年大事に思っている今は傍に居ない優しくて美しい女性の影があるのだと思わせたいのだ。もちろんそんな心当たりは無い。だが思われたいのだ。それでも何度もアタックして欲しいのだ。時には気持ちを綴ったラブレターも貰いたいのだ。そして3年位思われ続けて、その女性の熱意に打たれたといった形で付き合って、ぎこちなく手を握ったり、アイスクリームを伝って間接キッスをしたりしたいのだ。

そのような女性が鮮魚コーナーに現れないかと今か今かと待っていると、体が冷え切っている事に気づいた。

手先に温度が無い。

まだ見ぬ清楚な女性をやはり見る事なく、私は立ち去る事を余儀なくされた。

何も買わなかった。

長いこと居座った為、お腹が空いている事に気づいた。しかし冷蔵庫には何も無い。私は友人の内藤宅に向かう事にした。

内藤宅は程近い。家からスーパーまで徒歩7分、スーパーから内藤宅まで更に3分といった感じだ。てくてく歩き、内藤宅にたどり着く。

するとしばらく出かけますといった張り紙がなされていた。飲食店でも商店でも無いのに、何故、誰に向けてこんな張り紙をしているのだ? 無言で考えていると、中からゲームをプレイする音と共に、内藤の「あっ…クソ!むずいなー」というくつろいでゲームをしている声が聞こえてくる。

…いるではないか。私はドアをノックした。

一瞬中がシーンとなり、抑え目に近づいてくる足音がドアの向こうで止まった。そしてまたソーっと部屋の内部に戻る音と共に、ゲームを消す音が聞こえた。

これは、バレバレな居留守ではないか。

私は何故友達である私が居留守をされなければならないのか疑問に思い、内藤をおびき寄せる為、演技を始めた。

「…あれ? あれって堀 キマキでは? そうだ、間違いない! スーパーの方へ堀 キマキが向かっていったぞ!」

堀 キマキとは内藤の大好きな目のパッチリした自称宇宙系アイドルだ。私は大きめな声で叫んだ。

すると部屋の中から地割れの如く「ドドドドド」という音と共に、猛ダッシュで内藤が出てきた。

そして私を見て、「キマキマは!?」と言った。

私は「キマキさんはタクシーに乗ってどこかに行ってしまったよ。それより内藤、この張り紙はなんだい?」と言った。

内藤はあからさまに不愉快そうな顔をし、「お前が毎日食料をあさりに来るのが迷惑でこの張り紙をしたんだよ」と言った。

私は予想外の答えにビックリし、「え!? 毎日は来ていない! 週3回程度だ! 毎日来ていると思われたくないから、一日置きにするように気をつけていたんだ!」と反論した。

内藤はますます不機嫌な顔をし、先ほどのスーパーで売っていたドライマンゴーの袋を私の顔面に投げつけると、ドアをバタリと閉め、そのまま出てくる事は無かった。

このドライマンゴーというのはどうだ?最近時々見かけるが、味の想像がつかない。食べたらすごく変な味かもしれない。

しかし空腹には勝てない。食べよう。


このお洒落な食べ物をパクリと食べながら帰宅していたら、近所のスカートの似合うロングヘアーの女性がこちらを意識する可能性がある、と考えながら、私は6畳一間のアパートへ帰っていった。





おわり









実家のシャンプーがダウアーだった   2010.05.25 Tuesday   11:30   comments(0)   trackbacks(0)
『悪徳さな子』
 さな子は緑色の手垢が出るので、それで偽のマリモを作って売っている。

水に浮かぶので本物と遜色ない。手で形を作っているので丸以外にも様々な形が出来る。
この偽マリモは世話いらずなので子供からお年寄りまで飛ぶように売れている。さな子はこれを「阿寒湖の良いマリモ」というホームページで販売している。

さな子の手垢が緑色である事は、昔通っていた小学校では有名だった。
さな子は当時悩んでいた。みんなさな子に近寄るなかれといった空気を出した。
さな子はならば近寄ってやるものかと授業中にフライハイした。
一階だったので花壇にガタメシと着地した。あだ名が「飛田みどり」になった。

さな子はとても内向的になってしまい、恋人もあまり出来なかった。
22の時そんな内気なさな子に興味を持った内気な男性にお付き合いを申し込まれた。
しかし初めて出来た恋人も、手を繋げない、手を見せられないという理由からうまくいかず、別れた。
さな子は一人で生きていくしかない、と思い、自立の為に、手垢をマリモにしようと考え付いたわけだ。

実際この商売は大ヒットした。
「うさぎの形の阿寒湖のマリモ・うさまりん」や、「くまの形の阿寒湖のマリモ・くまりん」のようなキャッチコピーも巷で流行、女子高生などは、「うさまりん超かわいい〜」「うちいぬまりんだし。水代えなくても死なないし。超つえーし。パネェし。」みたいなノリで大フィーバーだ。

さな子は金を手にして手垢の手術を受け、治した。
するとマリモを作れなくなった事に気付いた。
そしてマリモもさな子の偽造とバレて吊しあげられた。

でもさな子は思った。「いい感じで自分は時の人だ」と。

騒ぎも終わり、金も無くなった。仕事をしようにも、面接官に「この人手垢事件の人だ」と思われ、落とされた。さな子は日銭に困り、焦った。
さな子はアパートの金も払えなくなり、実家に電話をするも相手にされず、仕方ないので阿寒湖のマリモを食べて湖畔で過した。

寒かった。

とても寒かった。

しかし、一年程経つと寒くない事に気付いた。

さな子の体が緑色のフサフサに覆われ、マリモ化していたのだ。

さな子は思った。「マリモはもう食べ飽きた」さな子はマリモなまま町へ出た。みんなはうわぁと逃げていった。
また時の人になった。時の人なのでTVショウに出演し、食うには困らず、よくビフテキを食べた。
マリモを食べなくなったので普通のさな子になった。
またさな子はみんなに忘れられた。

さな子はもうなんか色々と面倒臭くなり、パンツ丸見え状態で歩いていた。

そこでおっさんが現われて、「あんたマリモのさな子だろ?ツンパの下もマリモかい?」と言った。
さな子は「そうねぇ、そうかもしれないわねぇ。でももう、どうでもいいわ」と言って去ろうとした。
おっさんは「まぁ待てよ。酒奢ってやるから話そうじゃねぇか」と言った。
さな子はする事も無かったのでついて行った。
おっさんがスカートをちゃんとしてくれて、さな子のパンツは隠れた。

居酒屋「もんごめり」についた。

さな子は「尻隠して頭隠さずね。はははっ」と自嘲気味に笑った。おっさんはシカトで酒をかっくらっている。
さな子も暇なので酒を飲んだ。そして聞いた。
「おじさん、何で私を誘ったの?」おっさんは「ん〜?一人で飲むのもつまんねぇだろ」と言った。

さな子は「まぁそうね。」と言ってお通しのゴボウの煮付けを口にした。

「ばぶ!」

さな子ははぜた。
パアンとはぜたのだ。

おっさんは「あーあ、わけぇのにはぜちまったよ…」といってさな子を広い集め、元のさな子に戻した。

「あたしったらダメね。初対面ではぜるなんて…」と言ってグラスに口をつけた。
もんごめりのマスターは「気にする事ないですよ。ストレス社会ですから」とニッコリ笑った。
おっさんもガハハと笑った。

さな子は言った。「明日が見えない」

「見る必要ねぇよ。今だろ?明日じゃねぇだろ?」と陽気に言う。

さな子は「でもね実際明日なのよ…私には、明日の事が不安なの」と言いながら泣いた。
おっさんは「わけぇ時はそうさ。気にすんねぃ。飲め飲め」と言った。さな子は言われるがまま飲んだ。

何やら色々話した気がするが、あまり覚えていない。

夜も更けてきて、二人は店を出た。
「じゃ、おりゃあいつも夜は「もんごめり」で飲んでっから。暇ならまた来いや」とおっさんは言うと、千鳥足で駅へ向かって行った。
さな子はお礼を言って家に向かった。二度目のブレイク時に借りた狭いアパートへ向かう途中、マーケットで「くわい」を買った。
アパートの戸を開けると急に眠気が襲ってきて、玄関で靴も脱がずに眠ってしまった。

昼位に電話で目が冷めた。

「もしもし」相手も「もしもし」と言う。若い男の声だ。さな子は「もしもし」と言うわけのわからぬ言葉を二回言う事にウケてしまった。
相手はかまわず続けた。「俺俺、俺だけど。」俺俺詐欺だった。

さな子は明日が見えないのは自分だけじゃない、と実感した。

「じゃあ暇があれば振り込んでおくわね。」と適当な事を言い電話を切ると、買っておいたくわいを食べた。
少し苦い。

玄関で寝たので体が痛い。二日酔いで頭も痛い。
さな子はとりあえず風呂に入ると、またウトウトとしてきたので、風呂を出て布団を敷いた。テーブルの上のミカンを一口頬張って、そのまま夜まで眠った。


目覚めると同時にさな子の脳裏に、「新しい事をしなければ」という思いが浮かんだ。
さな子はバケツを頭に被り、体中にアロンアルファでマルチビタミンのサプリメントを貼り付けて、夜の町に出た。

「もんごめり」に行こうと思ったが、今は前衛な自分を大事にしなくては、と思い、路上パフォーマンスをした。

右手、右手、左手の順で天高く伸し、体中で突き抜ける思いを表現した。通報された。

怒られたので「もんごめり」に行った。
さな子がバケツをかぶっていたので、おっさんはすっとんきょうな顔をしていた。

さな子が「私よ。昨日のさな子です」と言うとおっさんは、
「あ〜!なんだその格好。マリモよりおかしな格好じゃねぇか。バケツかぶってたら飲めねぇだろ。脱げ脱げ!」と言って笑っていた。

さな子はバケツを脱ぐと、酒を飲んだ。マスターは「はい、今日のお通しははぜませんから」と言って、からしレンコンを出した。すごくうまい。

さな子は正直どうすればいいのかわからなかった。全く何もかもがわからなかった。
おっさんに「私わからないの」と言うと、
「わかる奴なんていねぇよ。お釈迦さんじゃああるめぇし!なんとかなるよ、安心せぇ!」と言いさな子の肩をバンとおもいきり叩いた。

さな子は思った。確かに何とかなってきた。きっと何とかなる、と。

そう。何とかなる。なるようになる。ケセラセラ。さな子は開眼し、またフライハイした。

一階だったので、道路にゴッ!ベタッとなった。

もんごめりの人達は楽しそうに笑っていた。誰もさな子に変なあだ名はつけなかった。

さな子も気付くと笑っていた。


家に帰ると、ケセラセラのレコードをかけた。
耳を傾けるうちにまた眠っていた。
何だか楽しい夢を見た。






おわり



















実家のシャンプーがダウアーだった   2010.02.28 Sunday   17:27   comments(0)   trackbacks(0)
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